2020年1月17日。
あの地震が起こって25年経つそうな。テレビや新聞、ネットやSNS、どこを見てもソレばっかり。
当時神戸に住み暮らしていた、あるいは神戸と関わりを持っていた方々にとっては、それぞれに思うところのある日だろう。オレにも一つの「それぞれ」がある。
が、20回を数えたあたりからは、努めて何かしら特別なアクションを起こすことを止めた。
普段と変わらないことを、いつもより少し丁寧にする。
そのことを心がけるようにしている。
6434の御霊に少しでも安心していただくには、祈るのも大事だけど、地震で失われた、あるいは傷ついたモノや文化と向き合い、アジャストする努力を続けることが肝心と思うからだ。
傷ついた文化と言えば、松岡さん的に身近なのは神戸の小売市場文化の凋落ぶり。
最大原因は、震災だ。
この影響で、当時市内にあった小売市場77団体約2000店舗の約45%が全損の被害を被った。
しかしこの45%という数字は、あくまで平均値。全損率を区別で見れば灘区の69.8%、長田区では76.7%と地域によって被害の差は非常に大きかった。
店舗の営業再開率は震災2年後でも77.6%にとどまり、この時点で約450店舗が廃業している。
以降、大手スーパーやショッピングモールの出店や再編、ネット通販の普及などによる購入活動の大きな変化に多くの店舗が充分な対応を取り切れなかった。
結果、店主の高齢化や収益悪化によって次世代に継続して営業出来ないと判断した店が加速度をまして閉店・廃業している。
現在の小売市場の数は、神戸市小売市場連合会のサイトを見ると、加入している団体は21団体、おおよそ3分の1は集中レジ方式のスーパーマーケットスタイルで営業している。
オレが神戸市の「商店街・市場 応援隊派遣事業」の応援隊として参加してからの5年間にもアソコの市場、やソコの市場が消滅していった。
結果、日々の買い物において、魚ならアソコの店、鶏肉ならアソコの店…みたいに電車に乗って「市場のハシゴ」をしなきゃならなくなって、相当苦労する状況になっている。
日々の仕事やランニングや勉強のこともあるので、そうそう毎日通えない結果、妥協の産物として敗北感を両肩に感じながらスーパーマーケットでワクワク感ゼロの買い物をしなけりゃならない。しかもその機会は微妙に増えている。
ある日の夕方、しゃーなしに寄ったスーパーで山積みにされていた大根と出会った。
暖冬で大きくなり過ぎたせいで値段を叩かれてるんだろう、広告の品と銘打ってボロ値で売られていた。
なんだかなぁ~
それでも大根は悪くない。せめて供養替わりにと1本カゴに入れた瞬間
「今日の飯はおでんだ。」
と機械的にその他の具材を購入して家路についた。
せめて出汁でも…と、昆布だけは二宮市場の「昆布の岩田屋」さんの羅臼昆布を使用してサクッと作っていただいた。
2日後、食べ終えた鍋に残っている出汁を見つめていて、ふと煮麺を食べてみたいという欲求が湧く。
昨年99歳で大往生を遂げたバアチャンの葬式の香典返しでいただいた高級素麺が封を切らずに残っていたので、2束ほど茹でて湯切りしたあと、熱々にした出汁をぶっかけてネギを乗せて食べてみた。
美味い、美味すぎる。
うどんでもなくソバでもない、おでんの出汁には素麺が最高にフィットする。
暮らしの便利さが進んだ世の中は、便利さを使って更に前へ進む人と便利に慣れて己のチカラを退化させている人と二つに分断されているような気がする。
世の中の便利に押し流されそうになりながら、かろうじて守った小売市場文化最後の矜持である羅臼昆布の旨味をしっかり味わって最後まで胃袋の中に流し込んだ。